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大阪地方裁判所 昭和46年(行ウ)61号 判決 1976年10月08日

東大阪市豊浦町五番二一号

原告

富士設備工業株式会社

右代表者代表取締役

橋本功七

同市永和二の三

被告

東大阪税務署長

佐古田保

右被告指定代理人

細井淳久

遠藤忠雄

中川平洋

曽我康雄

久保田正男

仲村義哉

主文

被告が、原告の昭和四三年度(昭和四三年四月一日から、同四四年三月三一日までの事業年度)分法人税につき、同四四年九月二七日付をもつてした、所得金額を金七〇八、六八五円(裁決により減額された後のもの)とする処分のうち、金三九八、八九四円を超える部分を取消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その二を原告の、その余を被告の負担とする。

事実

原告は「被告が、原告の昭和四三年度(昭和四三年四月一日から昭和四四年三月三一日までの事業年度)分法人税につき、昭和四四年九月二七日付をもつて所得金額を金三、四八〇、八二五円と更正し、異議申立てに基づく決定により金二、〇五七、一七五円と減額変更され、さらに審査請求に基づく裁決により金七〇八、六八五円と減額変更された処分(以下本件課税処分という)のうち金一九九、二六七円を超える部分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

一、原告は青色申告法人であるが、昭和四四年五月三〇日被告に対し、請求の趣旨掲記の係争年度分法人税について、所得金額を金三五〇、六七五円とする確定申告をしたところ、被告は同年九月二七日付をもつて、所得金額を金三、四八〇、八二五円と更正したので、同年一〇月二五日被告に異議申立てをしたのに対し、被告は、同四五年二月一二日付をもつて所得金額を金二、〇五七、一七五円と減額変更する旨決定した。これに対し原告は、同年三月二〇日、大阪国税局長に対し、審査請求をしたところ、同年五月一日国税通則法の改正により右請求は大阪国税不服審判所長に対する審査請求とみなされ、同所長において同四六年四月一二日付をもつて、所得金額を金七〇八、六八五円と減額変更する旨の裁決をした。

二、しかしながら、原告の所得金額は、金一九九、二六七円であるから、本件課税処分には原告の所得を過大に認定した違法がある。

よつて、ここに、被告に対し、本件課税処分のうち金一九九、二六七円を超える部分の取消しを求める。

三、(一) 被告主張事実第二項(一)は認める。

(二) 同第二項(二)のうち、原告の期末棚卸につき金一一〇、〇〇〇円の計上洩れがあること、必要経費につき被告等主張金額の架空計上をしたことは認めるが、その余は争う。

(三) 同第二項(三)は争う。

(四) 別表(一)貸方の売上「原告決算額欄」の金二四、五四六、七〇〇円の中には、左記の昭和四四年度分売上見込額合計金一五〇万円が繰入計上されているので、この金額を右売上金額から控除すべきである。

1. 松下綜合食品の陣列シヨーケース・冷房設備一式工事代金の一部 金一〇〇万円

2. 花田正石のセントラルヒーテイング冷暖房設備一式工事代金の一部 金五〇万円

被告指定代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。

一、原告主張請求原因事実第一項は認めるが、第二項を争う。

二、原告の本件係争年度分所得金額は、次のとおり金一、三九八、八九四円であるから、その範囲内でなされた本件課税処分には原告の所得を過大に認定した違法はない。

(一)  原告は、係争年度分法人税について、その所得金額を、別表(一)損益計算書中、借方番号23の「原告決算額」欄記載のとおり当期利益金二八〇、三七五円に、会社決算上損金に計上したが税法上損金とならない別表(二)記載の加算金額七〇、三〇〇円を加えた合計金三五〇、六七五円とする確定申告書を被告に提出した。

(二)  被告は、右確定申告書に添付されている原告の損益計算書の内容について調査したところ、貸方については、番号2期末棚卸につき金一一〇、〇〇〇円の計上洩れがあり、借方については、番号3、5、6、9、10、11、13、14、16、18、20につき、いずれも金一〇〇、〇〇〇円ずつの架空計上が認められたので(もつとも番号4給料については原告の申告額を金一六一、七八一円上まわる金二、八八一、三一九円を認定した。)、結局、原告の当期利益金は、別表(一)番号23「被告計算額」欄記載のとおり金一、三二八、五九四円となつた。

(三)  従つて、原告の係争年度分所得金額は、右当期利益金に別表(二)の加算金額を加算した合計金一、三九八、八九四円となる。

三、原告は、本件係争年度分として計上した売上額から、<1>松下綜合食品分金一〇〇万円及び<2>花田正石分金五〇万円は、いずれも本件係争年度分の売上として計上すべきでないと主張し、請負による収益額は、物の引渡しを要する請負契約にあつては目的物全部を完成して引渡した日、物の引渡しを要しないものにあつては、その約した役務の全部を完了した日をもつて益金額に算入すべき時期と解すべきである(法人税法二二条二項参照)ところ、右<1>については、係争年度内に工事が完了したと認められることは乙第二号証の記載内容からみて明らかであり、また<2>は、乙第一号証記載の原告の売上額から控除しており(その結果は、別表(一)貸方1の売上金額を六万円弱上まわる)、別表(一)の売上額に含まれていないから、右原告の主張は失当である。

よつて、原告の本訴請求は棄却されるべきである。

証拠として、原告は、甲第一ないし第二一号証を提出し、乙第一及び第四号証の成立を認め、第二号証は官署作成部分の成立を認めるがその余の部分は不知、第三号証は不知と述べ、被告指定代理人は、乙第一ないし第四号証を提出し、証人二宮正裕及び辻博の証言を援用し、甲第一ないし第六号証の成立を認め、第七ないし第一七号証及び第一九号証は原本の存在ならびに成立不知、第一八及び第二一号証は不知と述べた。

当裁判所は、職権で原告代表者本人を尋問した。

理由

一、原告主張請求原因事実第一項、被告主張事実第二項(一)、及び同(二)のうち、原告の本件係争年度分期末棚卸につき被告主張どおりの計上洩れがあり、また原告が係争年度分必要経費のうち、被告主張のとおりの架空計上をしていたことは、当事者間に争いがなく、支払給料額が金二、八八一、三一九円であることは被告の自認するところである。

二、本件の争点は、本件係争年度の売上額に翌事業年度に計上されるべき金額、即ち、<1>松下綜合食品に対する冷房設備工事代金の内金一〇〇万円、及び<2>花田正石に対する冷暖房工事代金の内金五〇万円、合計金一五〇万円が含まれているかどうかにあるので、これについて判断する。

(一)、請負工事による収益を計上すべき時期は、物の引渡しを要するものにあつてはその目的物の全部を完成して相手方に引渡した日、また物の引渡しを要しないものにあつてはその約した役務の全部を完了した日であると解すべきであつて、このことは、被告においても自認するところである。

(二)、成立に争いのない乙第四号証、証人辻博の証言により真正に成立したと認められる乙第三号証に、右証言ならびに原告代表者本人尋問の結果(甲第一九号証は、真正に成立したと認めることができないから証拠とするわけにいかない)によると、原告は、昭和四四年三月三日、松下綜合食品から冷房設備工事を代金一〇〇万で請負い、即日右代金を受領したことが認められる(この金額が本件係争年度の売上に計上されていることは弁論の全趣旨により明らかである。)けれども、右工事が本件係争年度の末日たる同月三一日までに完成されたことを確認するに足りる的確な証拠がない。

被告は、右工事の請負代金受領の後である同年五月八日及び同月二四日の二回にわたり、原告が追加契約代金として合計金六〇万円を受領している事実(この事実は前掲乙第三号証により認められる)から推して、前示請負工事が同年三月中に完了したとみるべきである旨主張するけれども、右は被告独自の見方であつて当裁判所の採用できないところである。却つて、原告代表者本人尋問の結果によると、原告は右工事を同年四月に入つてから完成引渡したことが認められる。

そうすると、右工事代金一〇〇万円は本件係争年度分の売上額に計上されてはならないことは、

二、(一)に説示したところにより多言を要しない。

(三)、成立に争いのない乙第一号証、官署作成部分の成立に争いがなくその余の部分については証人辻博の証言により真正に成立したと認められる乙第二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第一八号証に、証人二宮正裕の証言、ならびに原告代表者本人尋問の結果を総合すると、原告は、同四四年三月初め、花田正石から冷暖房工事を代金二四〇万円で請負い、同月三日契約金五〇万円を受領したが、右工事は同年一〇月頃完成したこと、被告においては、右受領契約金五〇万円が本件係争年度の売上に計上され、売上総額が金二五、一〇五、七〇〇円とされていたのを発見したので、右五〇万円を右総額から除外した結果、その残額が原告の申告売上額を若干上まわつたものの、これとほぼ合致したので、右申告額を是認したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠がない。

そうすると、右五〇万円は申告売上額には含まれていないといわねばならないから、これを申告売上額(被告の認定額)から除外すべきであるという原告の主張は採用できない。

(四)、以上認定したところから明かなように、前示<1>の金一〇〇万円は原告の売上額(延いては利益額)から控除されるべきであるところ、これを控除すると、別表(一)の貸方合計額が金二四、二一一、四九九円に、当期利益金額が金三二八、五九四円となり、これに別表(二)の損金に算入さるべきでない金額七〇、三〇〇円を加算した金三九八、八九四円が本件係争年度における原告の所得金額というべきであるから、本件課税処分の内右所得金額を超える部分は違法である。

三、よつて、原告の本訴請求中、本件課税処分(裁決により減額された後のもの)の内、所得金額三九八、八九四円を超える部分の取消しを求める部分を正当として認容し、その余の部分を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九二条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 下出義明)

別表(一)

損益計算書

<省略>

<省略>

別表(二)

<省略>

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